はじめに──「予算が足りないけど、 ないと困る」 ジレンマに、 どう答えたか
最初のお問い合わせメールは、 こう始まっていました。
「業務管理画面がどうしても必要なんですが、 他社さんで見積をいただいたら 148万円 でした。 うちの予算は 58万円 が上限です。 そもそも諦めるしかないのでしょうか?」
ご相談くださったのは、 ある小売・サービス業のクライアント様。 複数店舗を運営されており、 日々の売上・在庫・スタッフのシフトを、 担当者さんが毎晩 Excel に手作業で転記して集計されていました。
毎月の月次集計には 丸2日。 急ぎの数字が必要なときは店舗に電話して聞き取る── そんな状態だったそうです。
「Excelを開いて転記しているのが、 本来やりたい仕事じゃないんです」 という社長さんの言葉が、 とても印象に残りました。
業務効率化のための管理画面、 確かに必要です。 でも他社さんの148万円という見積も、 機能を全部入れれば妥当な金額です。 同等機能のSaaSを契約しても、 年間費用で見れば似たような額になります。
私たちがお引き受けしたのは、 「全部を作るんじゃなくて、 一番痛いところだけ58万円で作る」 という方針を共有できたからでした。
結論から──58万円で、 何ができて、 何ができなかったか
先に結果をまとめます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制作費 (税抜) | 58万円 |
| 制作期間 | 約6週間 (要件整理含む) |
| 納品物 | 業務管理画面1式 (売上入力 / 在庫照会 / 月次集計 / スタッフ管理) |
| 月額ランニング | 約3,000円〜 (Supabase + Vercel、 規模に応じて変動) |
| 担当工程 | 要件整理 / 設計 / 実装 / テスト / 導入研修 |
| 保守契約 | 別途、 月額1万円〜のスポット契約 (任意) |
納品後、 クライアント様の業務がどう変わったか:
- 月次集計が丸2日 → 5分 (転記作業がゼロに)
- 店舗→本部の売上連絡が紙のFAX → スマホ入力 に
- 「あの数字いま見たい」 がリアルタイムに
- 電話での売上確認が、 ほぼゼロに
このあと、 「ではどう58万円に押し込んだのか」 を順を追って書いていきます。
1. まずスコープを「本当に痛いところ」 1つに絞った
他社様の148万円の見積を拝見させていただきました。 機能一覧は以下のような感じです。
- 売上入力
- 在庫管理 (発注・棚卸・廃棄)
- 顧客管理 (会員情報・購買履歴)
- スタッフ管理 (シフト・勤怠)
- 月次集計レポート
- 売上ダッシュボード (リアルタイム)
- POSレジ連携
- 帳票出力 (PDF)
- 権限管理 (本部 / 店長 / スタッフ)
- マルチデバイス対応
全部入っています。 立派な見積です。 でもよくお話を伺うと、 「いまこの瞬間、 一番困っていること」 はもっとシンプルでした。
「月次集計に2日かかっているのを、 なんとかしたい」
これだけ。 顧客管理は既存の会員カードシステムで足りているし、 POSレジ連携は2年後の検討、 帳票PDFは手書きで十分── そうやって一個一個棚卸ししていくと、 必須機能はぐっと小さくなりました。
最終的にお渡ししたスコープはこうです。
| 残した機能 | 削った機能 |
|---|---|
| 売上入力 (スマホから) | 顧客管理 (既存システム継続) |
| 月次集計 (自動化) | POSレジ連携 (将来検討) |
| 在庫照会 (見るだけ) | 帳票PDF出力 (Excel出力で代替) |
| スタッフ一覧 | シフト管理 (既存ツール継続) |
| 簡易ダッシュボード | 権限管理 (3アカウントのみで運用) |
これだけで、 クライアント様の 「月2日問題」 は解決します。 残りは「あったら良いけど、 なくても困らない」 機能でした。
ここで一番大事だったこと: 削った機能を 「うちでは作れません」 ではなく「いまは要らないですよね」 と一緒に確認できたことでした。 業務をフラットに見つめ直して、 「本当に痛い1個」 にフォーカスする。 これができるかどうかで、 予算の意味が変わります。
2. 品質と速度を両立させる、 Qurated Lab の独自AI活用フロー
スコープを絞っても、 普通に作れば30〜40人日かかる規模です。 58万円の予算では、 人件費だけで赤字になります。
ここで効いたのが、 私たちが受託開発の標準として実施している 「docs主導 + 複数AIレビュー」 フロー です。
鍵は「いきなりコードを書かせない」 こと
世に出回っているAI活用の多くは、 「AIに指示を出してコードを書かせる」 ところから始めます。 私たちは違います。
私たちはまず、 ヒアリング内容を docs/ 配下に 要件・画面仕様・データモデル・受け入れ基準・運用フロー まで細かくまとめます。 1案件あたり10〜30本程度の Markdown ドキュメントになります。 ここに、 通常2〜3日かけます。
なぜここを省かないか。 docsを正にしないと、 AIが書いたコードを評価できないから です。 後工程で AI に「これで合っていますか?」 と問うときの基準が無くなり、 結局は人が全行を読み直すハメになります。
複数のAIに、 役割を分けてレビューさせる
docsが揃ったら、 そのドキュメントを 複数のAIに別々の役割で読ませる のがポイントです。
| AIの役割 | 主な観点 |
|---|---|
| 設計レビュアー | 要件と画面構成に齟齬がないか、 漏れがないか |
| 実装担当 | docsを正として、 コードを生成 |
| セキュリティレビュアー | RLS・認可・入力検証・依存関係の脆弱性 |
| コードレビュアー | 命名・可読性・テスト・将来の保守性 |
人間 (私たち) は、 AI同士のレビューで残った論点を判断する 役回りです。 「Aは『ここを直すべき』 と言っていて、 Bは『現状で問題ない』 と言っている。 どっちが正しい?」 を業務知識とクライアント様の事情から決める── これが私たちの本当の仕事です。
効果: 品質と速度の両立
この方式で得られる効果は、 2つです。
- 品質: 一人のエンジニアの見落としを、 複数のAIの目で拾える。 セキュリティと設計の二重チェックが docs を起点に自動で回る
- 速度: 人が「白紙からコードを書く時間」 も「全行レビューする時間」 もほぼゼロ。 人の作業は judgement (判断) に集中
結果、 設計から実装までにかかる延べ時間は、 従来手法の3〜4割 に縮みます。 それでいて、 手動レビュー単独よりも観点の網羅性が高い という状態が作れます。
これが「短納期 × 品質維持」 を両立できる理由であり、 そして58万円という金額を成立させた一番の裏側です。
誤解されがちですが、 「AIが作ったから安い」 のではありません。 何を docs に書くか、 AIにどんな観点でレビューさせるか、 AI同士が衝突したとき何を採るか── ここの設計が私たちの一番大事な仕事です。 ここを省くと、 安く見えて高くつくものができます。 中小企業向けのAI開発活用全般については 中小企業のためのAI開発活用ガイド で詳しく書いています。
バックエンドは「ノーコードに近いBaaS」 で
データベース・認証・APIは Supabase を採用。 SQLも AI に書いてもらい、 私たちは「このクエリ、 月末に重くならないか」 「Row Level Security の設定漏れがないか」 という観点でチェックを入れます (これも複数AIで)。
サーバーを立てて、 認証を実装して、 APIを書いて…という工程が、 ほぼ消えます。
なぜ Next.js と Supabase だったのか
技術スタックを選んだ理由は、 シンプルでした。
| 採用技術 | 選んだ理由 |
|---|---|
| Next.js (App Router) | 業務管理画面で必要な認証付きページ・サーバー処理・API Routeが1つで揃う。 部分的なSSR/SSGも自由に切り替え可能 |
| Supabase | PostgreSQL + 認証 + ストレージ + Realtimeが全部入り。 RLSで権限制御がSQLで完結 |
| Tailwind CSS + shadcn/ui | AIが生成しやすく、 管理画面に必要な表・フォーム・モーダル等が揃う |
| Vercel | Next.jsとの相性が良く、 プレビューURL自動発行でクライアント様への確認が速い |
「業務画面で必要な機能セット × AIとの相性 × 月額固定費が小さい」 の3軸で選びました。 最先端ではなく、 「いま、 少人数チームでも仕上がる組み合わせ」 という基準です。
(同じ理由で、 コーポレートサイトや読み物中心のサイトなら別途 Astro を採用しています。 案件の性質で使い分けています)
3. カスタマイズ要望は、 クライアント側で動かせる設計に
予算が限られているとき、 一番危ないのは「カスタマイズ要望」 です。
「あ、 ここの色を青にしてください」 「項目を1つ追加してください」── こういう要望が後から来ると、 58万円ではあっという間にショートします。
なので最初から、 こう設計しました。
- 項目の追加・削除はクライアント側がGoogle Sheetsから変更できる
- 店舗ごとの設定 (営業時間・税率・通貨) もSheetsで管理
- メッセージ文言の差し替えも、 ノーコードで完結
私たちが触らないと変えられない部分を、 機能の コア部分だけに絞り込み、 周辺はクライアント様が自分で運用できる設計にしました。
結果、 納品後3ヶ月で「あ、 これ追加したいんですけど」 という要望は 全部クライアント様の社内で完結 されました。 私たちへの追加見積は0円です。
4. 納品後、 何がどう変わったか (定量データ)
ここからは、 ご利用1ヶ月後・3ヶ月後にヒアリングした結果です。
業務効率: 月2日 → 5分
これが最大の効果でした。
| 業務 | Before | After | 削減率 |
|---|---|---|---|
| 月次集計 | 約16時間 (丸2日) | 約5分 | 99%減 |
| 店舗→本部 売上連絡 | FAX手書き / 1日10分×店舗数 | スマホ入力 / 1日1分 | 約90%減 |
| 数字確認の電話 | 1日3〜5件 | ほぼゼロ | 約95%減 |
担当者さん曰く: 「毎月最終週の月曜と火曜の予定が、 全部空きました」。
数字を見る習慣が、 経営に組み込まれた
これは予想していなかった変化です。
社長さんが 毎朝、 通勤中にスマホでダッシュボードを開く ようになったそうです。 数字が手元にあると、 「先週より落ちてる店舗があるな」 「あの商品の在庫、 今週末足りるかな」 という気付きが自然に生まれる。
経営の意思決定の速度が、 体感で 1週間 → 即日 に変わったとおっしゃっていました。
お客様の声
ご納品から3ヶ月後、 改めて社長さんに伺ったコメントです (掲載許諾済み)。
「正直、 最初は『58万円で本当に大丈夫?』 と心配でした。 でも、 ヒアリングの段階で『これは要らないですよね』 とハッキリ言ってくださって、 自分たちが何を本当にやりたいのかが見えてきました。 完成したものは、 機能こそシンプルですが、 私たちの仕事に必要なことだけがきれいに収まっています。 むしろ余計な機能がない分、 スタッフが迷わずに使えています」 (クライアント様 / 代表取締役)
5. 58万円に押し込めた、 もう一つの理由
ここまで読んで、 「いやでも、 そんな上手くいくの?」 と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
正直に書きます。 58万円でこの規模を成立させるには、 クライアント様側のご協力が不可欠 でした。
具体的には:
- 要件のヒアリングに、 社長さんと現場担当の方が真摯に時間を割いてくださった (合計5時間ほど)
- 「これは要らない」 という決断を、 クライアント様側でしてくださった
- テストフェーズで、 実際の店舗データで触ってフィードバックをくださった
- ご納品後の運用に必要な「Sheetsを触る」 工程を、 自社で覚えてくださった
私たちだけでは58万円にはなりません。 「一緒に作るパートナーになってくださる方」 がいてこその金額 です。
ですので、 こういった姿勢のクライアント様には、 私たちも全力でお応えしたい、 というのが本音です。
6. よくあるご質問 (FAQ)
ここまで読んでくださった方からよくいただく質問にお答えします。
Q1. どんな業種に対応していますか?
小売・サービス業を中心に、 BtoC・BtoBどちらもご支援実績があります。 業務管理画面 / 社内ツール / コーポレートサイト / Webアプリ全般に対応しています。 業種特有の業務フローは、 ヒアリング時に詳しくお伺いします。
Q2. 最短納期はどれくらいですか?
スコープによります。 今回の事例 (58万円・約6週間) は標準的なペースです。 緊急対応が必要なケースでは、 機能をさらに絞った 「3週間ミニマム版」 のご提案も可能です。 まずはお問い合わせ時にご相談ください。
Q3. 納品後の保守はどうなりますか?
3パターンご用意しています。
| プラン | 内容 | 費用目安 |
|---|---|---|
| スポット | 不具合修正・小さな改修のみ | 都度見積 |
| 月額保守 | 月1回の定例 + 緊急対応 | 月1〜3万円 |
| 共同運用 | 機能追加を含む継続パートナー契約 | 別途相談 |
今回のクライアント様はスポット契約ですが、 3ヶ月で追加見積は0円でした。
Q4. 58万円より安く・高くなることはありますか?
あります。 スコープ次第です。
- より安くなる例: 入力フォーム1つだけ・既存ツールへの追加機能・LP制作などは、 数万円〜数十万円の範囲です
- より高くなる例: POSレジ・在庫システム・会計ソフトとの連携が複数発生する場合、 100万円超になるケースもあります
「予算◯◯円で何ができるか」 という相談の仕方が一番フィットしやすいです。
Q5. AIで作るとセキュリティが心配ですが、 大丈夫ですか?
ご懸念はもっともです。 私たちは下記の4点を、 すべての案件で標準として実施しています。
- AIが書いたコードは、 別のAIと人で必ず二重チェック ── 一人 (一台) の見落としをなくします
- 「誰が、 どのデータを見られるか」 のルールを必ず設定 ── 例えば「店長は自店舗の数字だけ、 本部は全店舗の数字を見られる」 など、 役割ごとの閲覧範囲を仕組みで縛ります
- パスワードや管理用の鍵は、 外部に絶対漏れない場所に保管 ── 公開しているソースコードや GitHub等には一切含めません
- 公開前に「世の中でよくある攻撃パターン」 を一通りチェック ── 不正ログイン、 入力欄からの攻撃、 第三者になりすましてのアクセスなど、 業界で広く知られている代表的なリスクを潰してから納品します
業種・取り扱いデータに応じて、 さらに踏み込んだ対応 (個人情報保護法・PCI DSS等への準拠、 ペネトレーションテスト等) もご相談可能です。
Q6. 自社で運用していけるか不安です
ご納品時に 2〜3時間の操作研修 を行います。 また、 操作マニュアルを Google Docs (またはご希望のドキュメントツール) で納品しますので、 スタッフ入れ替わり時にもご活用いただけます。 操作で詰まったときの質問サポートは月額保守プランに含まれています。
7. ご相談を検討されている方へ
最後に、 もしこの記事を読んでくださっている方が、 似たような状況にいらっしゃるなら、 一つだけお伝えしたいことがあります。
「予算が足りないから諦める」 の前に、 一度ご相談ください。
私たちは「足りないから安く請ける」 のではありません。 「本当に必要な機能はどれか、 削れる機能はどれか、 AIや既存ツールでどこを代替できるか」 を、 まず一緒に整理するところから始めます。
その上で、 ご予算の範囲で何ができるかを正直にお伝えします。 もちろん、 「いまの予算では本当に難しい」 とお伝えすることもあります。 でもその場合も、 「では3年計画で段階的にやりましょう」 や「この部分は別のSaaSで」 という選択肢を一緒に考えます。
今回のクライアント様も、 最初のメールから半年経ったいま、 次の段階の改善についてもまた相談したい、 とおっしゃってくださっています。
58万円の管理画面が、 関係性のスタートになる。 私たちにとっては、 そこが何より嬉しい結果でした。
私たちのご支援できる範囲
Qurated Lab では、 中小企業様・スタートアップ様を中心に、 以下のようなご支援を行っています。
- 業務管理画面・社内ツール開発 (今回の事例)
- コーポレートサイト・LP制作 (Astro / Next.js)
- 既存システムの改善・モダナイズ
- 生成AI活用による業務効率化コンサル
- 多言語サイト構築 (事例レポート)
サービス詳細は サービス紹介ページ、 お見積り・ご相談は お問い合わせフォーム からお気軽にどうぞ。
から、ご相談ください
ITに詳しくなくても大丈夫です。ご予算の中でできることを、正直にお伝えします。
この記事を書いた人 鈴木 保乃香 (DesignLink) / 受託開発の進行管理・要件整理を担当。 中小企業様向けの「予算と要件のバランス設計」 を得意としています。 ご相談は お問い合わせ から。